モデリング・用語
ひとことで言うと
移動平均(MA)モデルは、現在の値が「今期と過去いくつかの誤差項(ショック)の重み付き和」で決まる時系列モデルです。AR モデルが過去の“値”を引きずるのに対し、MA は過去の“ランダムなショック”だけを一定期間引きずります。
MA(1) の自己相関 ρk の棒グラフ。ラグ1だけ ρ1=θ/(1+θ2) で非ゼロ、ラグ2以降はぴたりと0になる(有限の記憶)。AR の指数的に減衰し続ける自己相関とは対照的。
数式で表すと
γ0=(1+θ2)σ2, ρ1=1+θ2θ, ρk≥2=0
移動平均モデル。MA(1) は Yt=εt+θεt−1。ラグ2以降の自己相関は0。
MA(移動平均)モデルは、現在の値を過去のランダムな誤差項(ショック)εt の重み付き和で表す時系列モデルです。最も基本の MA(1) は
Yt=εt+θεt−1
で、今期のショック εt と1期前のショック εt−1 だけで決まります(εt は平均0・分散 σ2 の独立な誤差)。これを concept: AR と対比すると違いが鮮明です。AR(1) Yt=ϕYt−1+εt は過去の“値”Yt−1 を引きずるので影響が際限なく連鎖し(無限の記憶)、自己相関は ρk=ϕk と指数的に減衰し続けます。一方 MA(1) は過去の“ショック”を1期ぶんしか含まないため、記憶が有限で、ある時点で自己相関がぴたりと切れます。
MA(1) の自己共分散・自己相関を計算してみます。分散(ラグ0の自己共分散)は
γ0=Var(Yt)=(1+θ2)σ2
(独立な2項の分散の和 σ2+θ2σ2)。ラグ1の自己共分散は γ1=Cov(Yt,Yt−1) で、共通して含むのは εt−1 の項だけなので γ1=θσ2。よって自己相関は
ρ1=γ0γ1=1+θ2θ,ρk=0 (k≥2)
となります。ラグ2以降は Yt と Yt−k が共通のショックを1つも含まないため、自己相関がきっかり0になるのです。これが MA の「有限の記憶」の正体です。
この自己相関の形の違いは、実務での AR/MA 判別の手がかりになります。データの自己相関(ACF)を描いたとき、あるラグから先がぱたりと0に切れていれば MA、いつまでも指数的に尾を引いていれば AR、という見分け方です(より厳密には MA は ACF が打ち切られ、AR は偏自己相関 PACF が打ち切られる)。一般化すると MA(q) モデルは Yt=εt+θ1εt−1+⋯+θqεt−q で、過去 q 期のショックを含むため自己相関はラグ q まで非ゼロ、q+1 以降が0になります。MA はショックの重み付き和なので ∣θ∣ の値によらず常に定常である点も AR との違いです。試験に出る性質
MA(1) の式
Yt=εt+θεt−1。今期と1期前のランダムなショックだけで決まる。
分散と自己相関
γ0=(1+θ2)σ2、ρ1=1+θ2θ、ρk≥2=0。
有限の記憶(ACFが打ち切られる)
MA(1) はラグ2以降の自己相関がぴたり0。AR(1) の ρk=ϕk(指数減衰し続ける)と対照的。
AR/MAの判別
ACFが急に0に切れたら MA、いつまでも尾を引けば AR。実務の見分けの手がかり。
MA(q)への一般化と定常性
MA(q) は過去 q 期のショックを含み、自己相関はラグ q までで q+1 以降は0。MA は常に定常。
例で見る
MA(1) で θ=0.8、誤差分散 σ2=1 のとき
γ0=(1+0.82)×1=1.64、ρ1=1.640.8≈0.488、ρ2=ρ3=⋯=0。
1期離れた値とは中程度に相関するが、2期以上離れると無相関になる。
つまずきポイント
- MA の自己相関が AR のように指数的に減衰し続けると誤解する(MA はラグ2以降が0で“打ち切られる”)
- ρ1 を θ そのものとする(正しくは θ/(1+θ2)。分母の 1+θ2 を忘れない)
- MA と AR を取り違える(MA は過去の“ショック”の和、AR は過去の“値”を引きずる)
定着クイズ
MA(1) Yt=εt+θεt−1 の自己相関 ρk(k≥2)は?
MA(1) の ρ1 は?
AR と MA の自己相関の違いとして正しいのは?